森の思想―その3 林業

水という点から見ると水田以上に大切なのが、林業です。山村では多くの人が水田をつくりながら林業もしています。林業といえば木を切る仕事ですが、それ以上に「森を管理する」ということが水の観点からは重要です。

川の流れが一定なのは

スギやヒノキは、ひとが管理することによって大きくなります。管理の行き届いたスギ林・ヒノキ林は木の根も深く、またほかの植物もいっしょに育っているので土がふかふかしています。土が生きている証拠です。生きた土を育てている森は、水をたくさん蓄える(保水力)ことができます。保水力のある森はたえず水を川に流すので、川はいつも一定の流れになります。

「川の水が一定である」というのは実はとても不思議なことなのです。雨は降ったり降らなかったり、一定ではありません。もし川の水が雨だけでできていたら、川の水は増えたり減ったりするのがふつうです。けれども、いい森があるところは土がスポンジの役割をするので、雨が降ったときは雨をいっぱいに吸い込み、雨の降らないときは少しずつ水を流しながら、調整してくれているのです。森が「緑のダム」といわれるのはそのためです。

「緑のダム」は「コンクリートのダム」とくらべてはるかに性能がよく、効率もよいものです。しかし現状は、「緑のダム」の重要性が認められておらず、「コンクリートのダム」を増やすという方向へむかっています。

このように、水を蓄える土、土を守る森、森を育てる山村の暮らし、これらはみな「水」をキーワードにひとつのつながりの中にあるといえます。

林業の現状

日本の林業は、非常にきびしい状態にあります。若者はどんどん都会にでてしまい、お年寄りだけがのこっています。外国から安価な木材が輸入されるため、国内の木材は競争に勝てません。国内の木材は採算が取れないため放置されています。

スギやヒノキの植林は、原生林とはちがって人の管理を必要とします。その点で植林は畑の農作物に近いといえると思います。

植林の管理

スギ林やヒノキ林では「枝打ち」といって、幹をまっすぐに伸ばすために細い枝を切らなければなりません。細い枝をほうっておくと節ができてしまって木材としての価値が下がってしまうのです。また「間伐」というのも行われます。これは木が育つ際、木と木の間が狭すぎると太くならないので、育ちのいいものだけを残して、切ってしまうことです。こうすることによって、残された木は日の光を多く受けることができるし、森の風通しもよくなります。

光が差し込むようになると、地面にはスギやヒノキ以外のいろいろな植物が育ってきます。そのなかにはたとえば木に絡み付いて傷をつけてしまうようなものもあるので、地面に生えた草を払います。これを「下草狩り」といいます。草は何度刈っても生えてくる厄介なものですが、動物や昆虫にはえさをくれる大切な役割を果たしてくれます。

これらの作業を70年から100年以上も続けて、初めてスギやヒノキは木材として価値あるものになるのです。こうしてきちんと管理されたスギ林・ヒノキ林は根がしっかりと張っているので土が、流れません。スギやヒノキの根だけでなく、草の根も残っているからです。保水という点からも、原生林とそれほど差がないといわれています。

杉林を放置すると

一方で放置されたスギ林・ヒノキ林はどうでしょう。まず森の中に入るとなかが真っ暗です。日の光が地面までほとんど届いていないからです。木と木の間は狭く込みあっていて、マッチ棒のような細い幹ばかりです。また枝打ちもされていないので幹は節だらけ。これでは木材としての価値はありません。光が地面までとどかないので、下草は生えません。下草がないので昆虫や動物もあまりいません。また地面は岩でゴツゴツしています。もともとは土があったのでしょうが、土を支える下草の根や木の根が発達していないので、雨のたびに土が川に流れてしまい、岩だけが残っているのです。これでは木を切った後、再び植林をするのは難しいでしょう。

安価な外国材を輸入して、国内材を放置するというのは経済の観点からみれば正しいかもしれません。しかし環境の面から見るとこれはとんでもなく問題あることです。長期的に見ても、経済の面から大きな損失になるでしょう。とても残念なのは、経済的な視点とはあまりにも短期的なため、林業のような長い時間を必要とすることを計る物差しを持っていないということです。

日本の林業経営は失敗した

日本はここ30年ほど、国内の木材を放置して、外国から木材を輸入してきました。理由は先ほども触れましたが、経済的なものです。国内の木材は管理費や、切り出すまでのコストが高く、価格も高くなってしまうので、海外から木材を輸入したほうが、価格が安いのです。競争にならない国内の林業は放置され、荒廃が進んでいます。

外国の森を切り尽くす日本人

いっぽう、海外の森林はどうでしょう。日本に輸入される木材の多くは、東南アジアの原生林です。原生林とはもともと人の手がはいっていない、自然の森のことです。その原生林を根こそぎ切って持ってきます。

東南アジアの原生林(熱帯雨林)は「生物の宝庫」とよばれ、無数の昆虫や動物たちが生息してます。また二酸化炭素を吸収し、雨を降らせるなど地球にとってとても重要な役割を果たしています。気候や地質の関係から、いちど丸裸にされた熱帯雨林は、二度と元に戻らないか、回復するのにとてつもなく長い時間がかかるといわれています。日本の企業によって丸裸にされた山からは、雨のたびに土が流れ、土地の人は大変な思いをしています。そうして輸入された木材は、コンパネや雑誌や紙などとして、どんどん使い捨てられているのです。

日本は経済発展のために、ほかの国の森を切り、自分の国の森をほったらかしてきました。森を守ることをわすれため、森が弱り、土の流出が始まっています。1センチの土ができるのに千年かかりますが、なくなるのは一瞬です。そして土が海へ帰ってしまうとき、陸地は水を留めておくすべを失い、体の70%が水分で占められている私たちも、陸地での生活ができなくなるのです。

山村の荒廃は、とても深刻な問題なのです。

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